文京区のゴミ分別案内AIチャットボットがLINEをインターフェースにする理由
今年4月25日に公開となった東京都文京区が運用するAIチャットボット「リサちゃん」は、同区のゴミ分別について、区民からの問い合わせ窓口となるLINE上で動くチャットボットです。リサちゃん運用プロジェクトの検討が始まったのは2018年春。約1年間の準備期間を経て、LINE上で公開するに至った理由をまとめました。(※文京区ホームページよりブラウザ上でも利用可能です。)
AIチャットボット導入のきっかけとなった4つの課題
導入検討当初、文京区では大きく4つの課題がありました。ひとつは、区民のゴミ分別や収集に関する問合せ窓口が電話のみとなっており、開庁日でない日や時間帯など、不便をかけてしまっているケースがあり、これを解決したかったということ。そして、ふたつ目に、総務省が推進するオープンデータの積極的な活用を希望していたこと。また3つ目は、ITやAI技術を活用した先進的な取り組みを希望していたこと。最後に4つ目として、区民の方々に地域で執り行われているイベントや取り組みなどを知ってもらう機会を増やしたかったということです。
以上の4つの課題から、ゴミ分別案内専任のAIチャットボットをLINE(※当時LINE@)アカウント上で運用することが決定します。どうしてこのような施策が動き出したのか、その理由はこうです。
最も普及の進むチャットツールでユニバーサルサービスを作る
まず、区民のゴミ分別・収集に関する問合せ窓口を電話以外に、チャットを想定した結果、AIチャットボットが浮上してきました。AIチャットボットであれば、開庁日以外の日や時間帯でも、24時間365日の応答が可能です。取り組みとしても、当初(※現在でもそうですが)同区が希望するITや人工知能技術を利用した先進的なプロジェクトとして位置づけることができました。 また、昨今のAI技術などを使ったシステムやサービスは、非常に複雑でソリューションとしてすぐに取り入れるには極めて困難であることが多く、AIチャットボットはそういった面でもシンプルで分かりやすく、ユニバーサルサービスとして適していると判断することができました。
オープンデータを活用する絶好の機会
さらに、AIチャットボット導入プロジェクトは、オープンデータ活用のきっかけとして絶好の機会でした。オープンデータとは総務省が定義する「国、地方公共団体及び事業者が保有する官民データのうち、国民誰もがインターネット等を通じて容易に利用(加工、編集、再配布等)できるよう、次のいずれの項目(①営利目的、非営利目的を問わず二次利用可能なルールが適用されたもの、②機械判読に適したもの、③無償で利用できるもの)にも該当する形で公開されたデータ」のことです。同区のオープンデータの中には、区内の地域別ゴミ分別情報が既にCSVデータとして存在しており、これをチャットボットのQAデータとして活用しない手はなかったのです。チャットボット用QAデータにするためには、会話形式にする必要がありましたが、逆に言うとフォーマットはその程度のマイナーチェンジでよく、ほぼデータとしてはすぐに使える状況でした。
LINEなら区民との双方向コミュニケーションが実現できる
そして、当初LINE(※当時LINE@)アカウントを持っていなかった同区が、どうしてチャットボット導入を機にわざわざアカウント取得することにしたのか。それは、LINEのダイレクトメッセージ機能にありました。チャットボット運用を担当するリサイクル清掃課には、同課が着手する取り組みやイベントを区民の方々に知ってもらいたいという課題がありました。そこでLINE上でAIチャットボット「リサちゃん」と友達になった区民の方々に、ダイレクトメッセージ機能を使い、プッシュ型で同課の伝えたい情報を配信する形をとったのです。LINEアカウントが新しく同区のメディアとなることで、ホームページや区報の告知だけでは届かなかった新しい区民層に、届けたい情報をよりスピーディに着実に届けられるようになりました。
4つの課題を一挙に解決することとなった同区のAIチャットボット導入プロジェクトですが、特に今回、AIチャットボットをLINEに乗せることが、一石二鳥のベストプラクティスとなったと考えます。
AIチャットボットの存在価値を高める
一般的にAIチャットボットは、ユーザー(企業の場合は顧客)が購買行動を行うためのサポートツールとして捉えられがちです。ECサイトで購買行為の無料サポートをするAIチャットボットや商業施設などの利用案内を無料で行うAIチャットボット等がそれにあたります。この場合、エンドユーザーの最終目的が商品やサービスの購入であるため、AIチャットボットを無料利用することへの対価として、何か(利用登録やフォロー)を支払ってもらうことは極めて困難です。しかしながら、今回の文京区のゴミ分別AIチャットボットは、エンドユーザーの最終目的がAIチャットボットを利用することそのものであり、それが無料で出来るとなれば、返報性の原理は働きます。今回の場合は、ユーザーがLINEアカウントをフォローしてくれるということです。 これをつきつめれば、AIチャットボットを顧客の購買のための単なるサポートツールとして活用するのではなく、エンドユーザーがAIチャットボットを利用すること、それ自体の価値を高めることで、AIチャットボットは顧客接点を新たに創出するマーケティングツールとして変貌し得ます。この議題に関しては、こちらの記事でも論述していますので是非ご一読下さい。